我孫子武丸「弥勒の掌」

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おすすめ度★★★★☆(★5つ中)

 

 

私、モクソンは小説をそこそこ読むがその中でもよく読むジャンルはミステリーか、SFである。やはりミステリーやSFは想像力を掻き立てる。心も掻き立てる。ワクワクさせてくれる。年をとってもその興奮は止むことはない。

しいて短所を言えばミステリーなどはパターン化されることが多く、心の中でまたこのパターンかと考えてしまいその作品がつまらなく感じてしまうのがあるということであろう。

そういった短所を乗り越えようとする作家はやはり並大抵の想像力、文章力なのではないんだろう。

 

 

 

閑話休題

 

 

今回読んだのは我孫子武丸の「弥勒の掌」

 

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)

 

 

これは面白い。非常に面白い。

我孫子作品は「殺戮に至る病」についで二作目であったが、これからは自ら進んで我孫子作品をもっと読んでいきたいと思えるものであった。

 

あらすじは…

 

愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が疾走して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体(救いの御手)の関与を疑い、ともに操作を開始するのだが・・・。

 

といったものだ。

 

内容は基本的にあらすじ通りの展開であり、当作品の目次は

 

第一章 教師

第二章 刑事

第三章 教師

第四章 刑事

   :

   :

第八章 刑事

第九章 弥勒

 

といった単調なもので、作品が最後の章を除いて二人の主人公の視点を交互にとる形態になっているということがよく分かる。この手法が本作にサスペンス的空気を与え、それだけではなく本作の重要な部分の基礎となっていたりする。

2つの事件をきっかけに新興宗教「救いの御手」の内情を探っていくサスペンス、操作小説物と読んでも十分面白い。しかし本作の魅力は最終章のすべての種明かし、そして最後の盛大なオチである。ネタバレをしてしまうと本作の魅力を8割殺してしまうことになるので当然しないが、本作は「葉桜の季節に君を想うということ」(ネタバレ防止のため白字)のトリックの既視感を覚えながらも、読者の大半は想像できないような大胆なものとなっている。そしてオチは「殺戮に至る病ほど後味悪くないが実際に現実にありえそうな気味の悪さはある。(私個人としてはこのラストは大好きである。)

 

 

驚きたい人、サスペンス、捜査小説が好みな人はおすすめである。また何作かミステリーを読んでいてもっとミステリーを読みたいと思った方にもおすすめだ。本作は300ページ未満という一日でも読める軽い分量であるので気軽に読んでもらいたい。本作は想像以上の内容の濃い、興奮する瞬間を与えてくれるであろう。

 

 

私はこの作品をきっかけに我孫子武丸という作家自体に興味を持ってしまった。これからは我孫子作品を幾つか手をつけてみたいと思う。何かおすすめがあればぜひ教えてほしい。